「いもち病」は、イネがかかる主な病気のひとつです。昔からイネに発生してきた典型的な病害で、最も恐れられてきた歴史があります。
いもち病は発生する場所によって、「葉いもち」や「穂いもち」と名称が変わることがありますが、原因や症状は一緒で、感染すると黄色や茶色の斑点が現れ、症状がひどくなると、場合によっては株がまるごと枯死することもあります。
この記事では、そんないもち病についてご紹介。基本情報や対処法、予防法について詳しく解説していきます。
いもち病の基本情報
いもち病はイネに発生する主な病気のひとつで、カビの一種である「イネいもち病菌」に感染することで発症する病害です。
いもち病の発症時期について
葉いもちは6~7月にかけて発生する傾向があり、穂いもちは8~9月に発生しやすくなります。山間部などでは発生時期が早くなることもあります。
いもち病の症状について
いもち病は、発生する場所によって名称が変わります。
葉いもち
葉いもちに感染してしまうと、まず葉に緑いろや褐色の斑点ができます。進行すると斑点の内部が灰色に、外部が褐色に変色します。ひどくなると斑点同士が融合し、葉が枯れて稲穂ができなくなることもあります。
穂いもち
穂いもちは発生部位によって細かく分類されますが、穂の首の部分を侵される「首いもち」に感染すると、出穂期に穂首が褐色に変化します。これに感染するとお米ができなくなり、収穫が見込めなくなってしまいます。
苗いもち
苗いもちは箱育苗の普及とともに、いもち病による苗立枯病が発生したことから注目され始めた、現代ならではのいもち病です。
苗いもちは葉いもちや穂いもちとは違って斑点が現れず、全体が灰色や黒に近い色に変色するのが特徴です。進行が早く、ズリコミ症状になることもあり、ひどい場合は全体が黒色から褐色に変化し、枯死してしまいます。
いもち病はなぜ発生してしまうのか
いもち病が発生しやすくなる条件は、湿度が高いことと、平年に比べて気温が低いことです。特に冷夏の年や、夏に雨が多く日照時間が短い年は注意が必要です。
また、田んぼに冷たい水が入り込んでしまうことや、窒素肥料を大量に与えてしまうことも発生原因のひとつと考えられています。また、密植も要因となり得るので、注意が必要です。
いもち病の対策(防除)方法について
いもち病は一度発症してしまうと、完全に治すことが難しい厄介な病気です。そのため、何よりいもち病にならないよう、しっかり予防することが大事です。
窒素肥料の量を守る
窒素肥料の量を守ることで、窒素肥料の与えすぎによるいもち病の発症を防げます。肥料は用量が大切なので、しっかりと見極めることが大切です。
農林水産省によると、イネの育苗1箱当たりの窒素適量は0.8~1.2gで、水稲機械移植育苗肥料(4-4-4または4-6-4)の施用を推奨しています。
この『4-4-4』というのは、肥料全体のうち、窒素成分が4%、リン酸成分が4%、カリ成分が4%含まれていることを表しています。
そのため、4-4-4の肥料を使用して100gの窒素を施用したい場合は2.5㎏の肥料が必要となり、同時にリン酸とカリも100g施用することになります。
健全な種もみを使用し、消毒を徹底する
元々いもち病菌に感染している種もみから感染することで、いもち病が発生することもあります。そのため、いもち病に感染していない種もみを使用しましょう。
また、種もみの消毒を徹底し、いもち病が入り込まないようにすることも大事です。
間隔を空けてイネを植える
田んぼにイネを植えすぎると密植状態となり、生い茂って株間の温度や湿度が上昇します。特に多湿な環境下では病原菌の活動が活発になります。
適切に間隔を空けてイネを植え、菌が発生しやすい環境にならないようにしましょう。
注意深く観察する
いもち病は気温が20~25℃の時に活動が活発になり、湿度が高いと、あっという間に繁殖してしまいます。そのため、雨の日が続いた時や、夏場に涼しい日が続いた時は、異常がないか注意深く観察しましょう。
特に葉に褐色の斑点ができていないかをチェックすることが大事です。病気は早期に発見した方が治りやすいので、サインを見逃さないようにしましょう。
被害に遭ったイネを放置せず処分する
いもち病にかかってやむを得ず刈り取ったイネがその場に放置されていると、そこからいもち病に感染してしまうことがあります。
伝染源にしないためにも、刈り取ったイネはすぐに処分するように心がけましょう。
いもち病になったら殺菌剤を散布しよう
いもち病が発生してしまったら、それ以上の被害を防ぐための殺菌剤を散布しましょう。ただし、何よりも予防が大切であるということは念頭に置いておく必要があります。
いもち病に効果が期待できるとして登録されている殺菌剤は下記のとおりです。
- フジワン乳剤
- フジワン1キロ粒剤
- カスミン液剤
- ダブルカットフロアブル
- ブラストップフロアブル
- ビームゾル
- ビームエイトゾル
- ノンブラスフロアブル
- コラトップ1キロ粒剤12
- コラトップ粒剤24
- ブラジンゾル
- ラブサイドフロアブル
- ブラステクトフロアブル
- オリゼメート粒剤20
- オリゼメート粒剤40
薬剤はどこで手に入れる?
上記の薬剤は、ホームセンターで購入できます。近年増えてきている防除薬剤を専門に扱う通販サイトでも購入が可能です。
いもち病対策のためにも、ぜひ購入しておきましょう。
いもち病は農薬などで治療できる?
いもち病にかかってしまった場合、上記の薬剤で被害の拡大を防ぐことはできるものの、治療したり完全に治したりすることは残念ながらできません。
そのため、こまめにイネの様子を観察する、健全な種もみを使用する、いもち病が発生しやすい環境を作らないといった予防をしっかりすることが大切です。
いもち病に強いイネも開発されている
繰り返しになりますが、いもち病は何よりも予防をすることが大切です。そして予防の一環として、イネを改良し、いもち病に強い品種を開発しようという取り組みがおこなわれ始めています。
「ともほなみ」は、2009年に愛知県の農業総合試験場で研究や開発がおこなわれたイネの品種で、陸稲のいもち病に強い抵抗性遺伝子をコシヒカリに結合させたものです。ともほなみの開発は、2009年農林水産研究成果10大トピックスの第1位に選ばれました。
いもち病に強いイネを植えることで、殺虫剤の使用料や使用頻度、作業時間そのものも減らすことができると期待されています。
いもち病についてのまとめ
いかがでしょうか。
いもち病は古くからイネに感染する病気の一つとして認知されており、被害が拡大すると収穫自体が見込めなくなるため、特に恐れられている病害です。
いもち病の特徴は、緑や褐色などの斑点が現れることで、発生する場所によって名称が変わります。
いもち病にかかってしまった場合、薬剤を散布することで被害の拡大を防ぐことはできますが、治すことは難しいため、何より予防することが大切です。
一見、いもち病を予防することは難しいように思えますが、いもち病が発生しやすい環境を作らないことや、こまめに状態をチェックするなど、ポイントを押さえておけば防げる病気でもあります。
この記事を参考に、いもち病の予防や対策をおこないましょう。
- いもち病はカビの一種で、発生時期は6~9月
- 発生場所によって名称が変わるが、原因や症状は同じ
- 冷夏や日照時間が短い日が続いた時は注意が必要
- いもち病になっても、薬剤を散布することで被害の拡大を防げる
- いもち病は完全に治せないため、予防が何より大切